障害者いじめの一つの「形」-「聲の形」から(22)

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Nice!

さて、前回のエントリで、マイナスのインセンティブ(努力しないほうがトクをする、という利害構造)が発生せず、また「(弱者であり困窮していることの)認定」という制度も必要でない、すぐれた支援の理論的枠組みとして「ベーシックインカム制度」というのが考えられるということに触れました。ベーシックインカム制度とは、非常に乱暴に言うなら、現状でいうところの生活保護制度による支給に相当する金額(=健康で文化的な生活に必要な最低限の費用)が全員に支払われ、その原資をまかなうため、所得税や法人税など、経済活動によって生まれる収入に対して、いまよりも高率の税を課する制度です。まずはこの制度のメリットの1つめである、「マイナスのインセンティブが発生しない」という点について考えてみたいと思います。現状の支援制度では、生活の困窮度が高いほど(生きるのが困難なほど)多くの支援が提供され、困窮度が下がるに連れて支援の量が減っていく、という仕組みが採用されています。例えば障害であれば、重度、中度、軽度という3段階の障害認定制度があって、重度のほうがより多くの支援が提供されるといった具合です。このような制度では、例えば「中度」に該当する人が努力のかいあって就業し、少しお金を稼ぐことができるようになったりとすると、障害認定が「軽度」とか「認定なし」に変わったりすることがあります。そうすると、その結果として福祉制度から提供される支援の量(端的に「お金」をイメージすると話が簡単です)が減らされ、せっかく稼いだ分のお金が相殺されて、結局生活水準は変わらなかったり、下手をすると下がったりしてしまいます。そうすると、「認定が軽くなってしまうくらいなら働かずに今のまま支援を受けているほうがマシだ」と考えるのが「合理的」ということになってしまうわけです。これが「マイナスのインセンティブ」です。これに対し、ベーシックインカム制度では、このようなマイナスのインセンティブが発生しません。働いても働かなくても、もともと得ていた「最低限の支援」は変わらず常に安定して提供されます。そのうえで、働いたら働いた分だけ、ベーシックインカムで保証された最低限の支援に上乗せして、稼ぎが手元に残ります。(ただし、その「自分で働いて得た稼ぎ」に対しては、例えば50%とかそういった水準の、非常に高い「所得税」が課税されます。)↑「いつものグラフ」でベーシックインカムのモデルを示すと、こんな感じになります。 今までとまったく違う形になり、難しいので、いずれエントリを改めてこのグラフについては説明する予定です。この制度では、・まったく働かない(働けない)場合でも、最低限の生活が保証されている。・少しでも働き収入を得ることができれば、その分、生活を豊かにすることができる。・まったく働かない(働けない)より少し働いた方が、さらにはそれよりももう少し働ければさらにもう少しと、自力で生活する努力をすればするほど、その努力に比例して生活を豊かにすることができ、福祉制度の側からその「努力」を相殺されてしまうような事態が発生しない。といった形で、「自立・自活のための努力とその成果の量に比例して、生活を豊かにすることができ、その関係が支援制度によって相殺されたり歪められたりすることがない」というインセンティブ構造が担保されていることが分かります。これが、ベーシックインカム制度においてマイナスのインセンティブが発生しない、ということの意味になります。※既にまんがの内容とは別のポイントでの議論になっていますが、いちおうまんがのリンクも貼っておきます。 聲の形 第1巻・第2巻・第3巻・第4巻・第5巻・第6巻大今良時講談社 少年マガジンKC