ブックレビューが続いて、少し記事に間があきましたが、またこちらのシリーズ記事の続きを書きたいと思います。このシリーズ記事、後半は、「しない」ということば(拒否の意思表示)を活用したコミュニケーションがなぜ「難しい」のかについて、さまざまな角度から考察しています。前回までのエントリで、「しない」を教えるときには、セットで「する(したい)」を教える必要があり、子どもがある行為を「したい」ときに「する(したい)」と発話し、「したくない」ときには「しない」と発話するという行動を「分化強化」していかなければならない、ということを書いてきました。さて、ここで、以前も掲載した4つのパターンを改めて見てみましょう。1)「したい」ときに「する」と答える = 「する」が強化される2)「したい」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が消去/弱化される3)「したくない」ときに「しない」と答えた場合 = 「しない」が強化される4)「したくない」ときに「する」と答えた場合 = 「する」が消去/弱化される実はこのパターンは、大事な要素を1つ省いています。それは、「する」「しない」の対象となる行為です。ここで、対象となる行為を「A」とします。「A」は、「おまいり」だったり「うんち」だったり、「水を飲む」だったり、そういうしたかったりしたくなかったりする行為のことです。この「A」という要素を入れて、改めて先のパターンを書いてみます。1)Aを「したい」ときに「(Aを)する」と答える = 「(Aを)する」が強化される2)Aを「したい」ときに「(Aを)しない」と答えた場合 = 「(Aを)しない」が消去/弱化される3)Aを「したくない」ときに「(Aを)しない」と答えた場合 = 「(Aを)しない」が強化される4)Aを「したくない」ときに「(Aを)する」と答えた場合 = 「(Aを)する」が消去/弱化されるこのパターンと先のパターンで、何が違うのでしょうか?それは、強化や消去・弱化される対象として「A」という行為(の名前)が増えている。ということです。まあ、見れば分かる当たり前のことなんですが、実は少し意味があります。ここで、2)のパターンになったときのことを改めて考えてみます。大人から「Aは?」と聞かれて、間違って(やりたいのに)「しない」と答えてしまったパターンです。この場合、Aをやりたかったのに、Aができません。その結果「Aを」「しない」という発話(とその背後にある認知構造)は、消去ないし弱化されます。ここで、「A」(おまいり、うんち、水のみなど)ということばが、非常に強固に学習され定着している場合は、特に「A」のことを考慮する必要はないのですが、仮に「A」ということばがそこまで定着していない場合は状況が変わってきます。つまり、「Aを」「しない」という発話が消去されるということは、「しない」だけでなく「A」ということばの学習まで消去してしまう恐れがあるわけです。ですから、「しない」「する」の分化強化学習をすすめようとした際に、学習習熟度が低く、2)や4)の間違いがしばしば発生してしまう場合は、単に言い直しをさせればいい、と考えるべきではありません。そうではなく、そういう場合はもっと積極的にプロンプト(子どもが発話する前にこちらで小声で「しない」と言ってしまうとか、声を出さずに口真似だけしてみせるとか)を使って、「失敗しない」学習をさせるほうが望ましいわけです(これはABAの基本ですね)。また、「する」「しない」の対象となる行為「A」は、先のような理由から、既にことばとして十分に学習され定着しているものを選ぶように心がける必要があります。(次回に続きます。)